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就活が変わる時代に、注目したいリベラルアーツ教育

就活が変わる時代に、
注目したいリベラルアーツ教育

毎年、初春から秋にかけて、街中でリクルートスーツに身を包んだ大学生の姿を見かけます。こうした姿も、あと数年後には過去のものになるかもしれません。日本の大手企業を中心に構成される日本経済団体連合会(経団連)は、新卒学生の通年採用を拡大することで大学側と合意しており、就職活動の長期化に拍車がかかることも予想されます。学業と就活を両立できる充実した大学生活を考えるとき、それに連なる中高6年間の過ごし方も無関係とは言えません。就活をめぐる動きと、中学生から身に付けたい資質・能力を考えてみましょう。

ルール撤廃で就活が早期化・長期化

多くの日本企業はこれまで、大学の新卒学生を新入社員として一括採用するのが通常でした。この仕組みは、日本経営者団体連盟(日経連)が1953年に大学側と結んだ「就職協定」に端を発します。

その後、紆余曲折を経て、現在の経団連「採用選考に関する指針」へと引き継がれていきました。説明会の実施などの解禁日、面接などの採用選考、内定の解禁日などの就活ルールがそれにあたります。

ところが、2018年10月、経団連は2021年以降の採用指針を策定しないと発表。その代わり、経団連や大学の関係者を交えた会議で、政府が就活ルールの方針を示すことになりました。さきごろ発表された政府方針では、2022年春に入社する現大学2年生については、前年同様、広報活動の解禁日を大学3年の3月から、採用選考活動を大学4年の6月以降、内定解禁を10月とする日程としました。

就活ルールは、学生が学修時間を確保しながら安心して就職活動に取り組めるようにするため、と言われてきましたが、現状では形骸化しています。文部科学省がこのほど公表した「2019年度 就職・採用活動に関する調査(大学等)調査結果報告」によると、企業が採用選考を開始した時期は、大企業で「3月」が26.5%、「4月」が22.4%、中小企業で「3月」が31.2%、「4月」が25.1%となっています。就活生が内々定を得た時期は、大企業で「6月」(38.6%)、中小企業で「5月」(26.2%)などとなっており、事実上、数カ月も前倒しで行われているのです。

政府は、2023年春入社の現大学1年生の就活ルールについては「未定」としていますし、経団連が今後もルール撤廃を維持し、かつ、現行の就活ルール自体が形骸化している実情からみると、今後、大学生の就活はより早期化・長期化する可能性が高まっています。

ここ数年は採用したいと思う企業の数に対して、学生数が少ない「売り手市場」であるとはいえ、就活ルールを巡る不透明な状況を大学は歓迎していません。

先ほどの調査では、「実質的な選考活動を早期に開始する企業があったことで、学生の就職活動に混乱が生じた」と答えた大学は41.0%、「教育実習を行う学生について、採用面接の次期が重なった」は34.8%となりました。

就活の早期化は、3年から4年にかけてのゼミや海外留学、実習、卒業論文作成などで身に付けた力が評価されにくくなり、大学教育を根本から否定することにもつながりかねません。

私立中高一貫校のリベラルアーツ教育に着目

では、これから大学進学する人にどのような力を求めるのか、大学と経団連による合同会議「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の中間報告書には、これからの社会で求められる人材と大学教育のあり方について、「リベラルアーツ教育」が重視されるとあります。

リベラルアーツとは、古代ギリシャ・ローマ時代が起源の、「人が自由人として学び、考えるための学問」を意味するもので、現代の日本では「教養教育」と訳されることがよくあります。

国際基督教大学(ICU)や立命館アジア太平洋大学、早稲田大学国際教養学部などがリベラルアーツ教育を導入していることで知られます。

報告書では、現代におけるリベラルアーツ教育は、論理的思考力と規範的判断力を磨き、「課題発見・解決力」や「未来社会を構想し・設計する力」を身に付けることだと定義します。

具体的には次のような学び方を提起しました。

  1. 一つの専門分野を深く学ぶことによって論理的思考力を身に付ける
  2. 他分野への関心と学びによって幅広い知識と複眼的な思考力を得る
  3. 規範論を研究する学問領域を学ぶことによって規範的判断力を磨く(哲学や倫理学、政治学、法学などで研究されている規範理論を学ぶこと)

実は、こうした教育を行っているのは、大学だけではありません。

私立中高一貫校には、リベラルアーツ教育をおこなう学校が数多くあります。

中高6年間で、文系・理系の枠を設けずに幅広い教科を選択できる学校や、音楽や美術などの表現教育に力を入れる学校、学年にかかわらず複数の教科を組み合わせた特別講座を開講する学校、豊かな自然環境の中でさまざまな体験を積ませる学校……と、取り組みはさまざまです。

どの学校にも共通しているのは、大学受験に必要な勉強をするだけが「学び」ではない、と考えていることです。また、リベラルアーツ教育を受ける土台となる、数理的な力や文章表現力、語学力も重視し、幅広く柔軟な考えを中高6年間で育てることに主眼を置いています。

アメリカのリベラルアーツ・カレッジは、日本の総合大学と違い、学生数は500人から3,000人程度と小規模で、教員と学生の距離が近く、アットホームな雰囲気が特徴と言われます。私立中高一貫校は、それに良く似た環境で、生徒一人ひとりへの指導が行き届いていると言えるでしょう。

今後、大学生の就活ルール、また日本の雇用環境自体もどのように変化していくのかは予測不可能です。そんな不確実な未来を生きる子どもたちに、周囲の状況に左右されない、ブレない力を身に付けさせたいと考えるなら、中学生からのリベラルアーツ教育は、現実味のある選択肢と言えるでしょう。


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