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「塾なし」での中学受験を考える

「塾なし」での中学受験を考える

鳥居りんこ

中学受験といえば「塾通いが当たり前」という“常識”があります。中学受験は高校受験とは異なり、学校で習う範囲を超えた出題も多いため、対策が欠かせないからです。
その対策を担うのが中学受験専門の大手塾であり、現在では多くの家庭が塾の力を借りています。

良し悪しは別として、かつて“難問”とされた問題も塾の指導力の向上により、今では難問とは見なされないものも数多くありますし、保護者世代では難関校で出ていたレベルの問題が、今や中堅校でも出題されることが珍しくなくなっています。

塾を活用する受験生が増えるにしたがい、学校側は合否判定の精度を高めるべく入試問題のレベルを上げ、塾側もそれに応じて対策を強化するという流れのなかで、昔に比べると受験問題の難易度が各段に上がっているのが現状です。

また、文科省主導の大学入試改革に合わせるかたちで、中学入試でも思考力を問う問題が頻出されるようになってきました。知識があることは大前提で、そこからさらに「何をどう考えたのか?」を表現する力を求める入試方法に変化しているのです。

このようなことから、対策が必須になるため「塾ありき」になりがちなのですが、今回はあえて「塾なし」に挑む道について考えてみたいと思います。

塾通いへの不安と「塾なし」を選ぶ理由

「塾なし」での中学受験をめざそうかと考える保護者が、「塾あり」の場合でまず抱く不安といえば、塾での拘束時間についてです。

早いご家庭では、小学1年生から塾通いがスタートします。もちろん、低学年のうちは、カリキュラムは緩やかなものですが、学年が上がるにつれて習う単元の内容は難しくなっていきます。
それに比例するかのように通塾時間も長くなり、小6ともなれば、土日や長期休暇も勉強にあてるという、まさに受験勉強一色の生活になるのがむしろ普通です。
このような暮らしが子どものためになるのかという疑問は、多くの保護者が抱くことです。

そのうえ、中学受験専門塾の費用は高額です。小4から小6までの3年間で250万円以上はかかるでしょう。
費用だけではなく、送り迎えなど親の負担も相当です。
また、競争を煽るかたちになってしまう塾の姿勢に疑問を持つ保護者も、少なくないのが実情です。

お子さんの性格なども考えると、「本当に塾は必要なの?」「家庭でみてあげられないか?」と考える保護者がおられるのも、もっともなことだと思います。

「塾なし」で挑む中学受験のメリットとデメリット

「塾なし」にするかを考えるにあたって、そのメリットとデメリットをおさえておくことは大切です。

まずメリットは、

  • 費用の軽減:塾代が丸々かからない。
  • 子どものペースでの学習:苦手分野にじっくり取り組める、得意分野を伸ばせる。
  • 親子のコミュニケーションの強化:共に目標に向かうことで絆が深まる。
  • 学習への自主性が育つ:「やらされる勉強」ではなく「自ら学ぶ」姿勢が身につく。

反対にデメリットを挙げると、

  • 親の圧倒的な負担増:学習計画、教材選定、進捗管理、質問対応、精神的なサポート、これらすべてを担う覚悟が必要。
  • 情報の格差:最新の入試情報や学校情報を自ら収集する必要がある。
  • 客観的な立ち位置の不明瞭さ:塾の模試などを活用しなければ、ライバルの中での自身の現在地がわかりにくい。

「塾なし」をめざすにあたって重要なのは、上記のデメリットをどう克服するかにあります。
では「塾なし」で合格を勝ち取るのは、不可能なのでしょうか?
答えは「可能」です。必ずしも全員が塾に通う必要はないのです。

「塾なし」中学受験のための5つの戦略

あえて「塾なし」を選んだ保護者に求められる、デメリット克服のための実践的なノウハウを解説します。

1)情報収集と目標設定=親自身が受験のプロになる

「塾あり」でも情報収集は親の務めですが、「塾なし」ではそれらのすべてが親の仕事となります。
偏差値だけではなく、校風や教育理念を重視した志望校選びのために、自ら説明会や文化祭の日程を確認し、実際に動く必要があります。
また、過去問を分析し、出題傾向を把握しなければなりませんが、塾という協力者がいない状況ですから、その分、冷静に、緻密に行わなければなりません。
逆に言えば、「塾あり」のご家庭よりも家族での一致団結度は上がりますし、世間評ではない「わが家流」の子育てを実行できるチャンスでもあるでしょう。

2)学習計画=ゴールから逆算したスケジュールを立てる

まずは、小4から小6までの大まかな年間計画を立てます。この時期には何をやるかを頭に入れながら、基礎固め期・応用期・過去問演習期などに区切り、月ごと、週ごとの学習内容の割り振り方を決めていきます。
また、子どもに合った無理のない日々のルーティン作りと、それを日々実行していく“親力”が必要です。自由なスケジュール化が可能ですから、「塾あり」よりも平日と休日のメリハリ、あるいは習い事との両立などがしやすいでしょう。

3)教材選び=家庭学習の”相棒”を見つける

「塾なし」ですと市販教材を選ぶことになります。基礎向け・応用向けなど、まずはわが子のレベルに合ったものを選び、余裕があるようなら、少し考えれば正解しそうな問題がある参考書にチャレンジしましょう。
様々な問題集に手を出したくなるものですが、まずは1冊選んで、それを「やり切った!」という充実感を親子で持つと、そこから先も好循環になることが多いです。
もちろん、通信教育もありですし、家庭教師・個別学習塾を併用するご家庭も多くあります。

4)日々の学習=親は”教師”ではなく”最高の伴走者”

親の役割は「塾あり」のご家庭よりもさらに重要です。
スケジュール管理・丸付け等ももちろん大事なのですが、苦手分野をどう克服させるのか、子どものモチベーションをどう維持していくのかは合格への道筋としての肝になりますから、ここは親の腕の見せどころです。
大切なのは「解らない問題を一緒に考える」という姿勢です。時には子どもに教師役になり、問題の解説をするのがとても有効です。
「塾なし」では、子どもに学習習慣を確実に身につけられるかが合否の鍵を握ると言っても過言ではありません。それには学習環境を整えなければなりませんし、「この時間は勉強する時間」といった生活リズムを淡々と実行できるように、家族で一致団結することが重要になります。

5)模試の活用=”道しるべ”として定期的に受ける

わが子の立ち位置が確認できないと、併願校も決めにくくなります。
各塾などが主催している公開模試は、適切なものを選んで定期的に受けてください。客観的な学力が測定できますし、試験に慣れることもできます。
模試の結果は、偏差値の上下に一喜一憂することなく、志望校の入試問題レベルと現在の実力差を埋めるための手段として活用したいものです。

柔軟な「塾なし受験」と、親子で挑む意義

一口に「塾なし受験」といっても様々なパターンがあります。
先述したように、通信教育、家庭教師、個別学習塾などを併用するのも“有り”です。「絶対に塾なし」と固執せずに、夏期講習や苦手分野の単科講座を受講するなど、必要に応じて外部サービスを柔軟に活用する選択肢もあります。

「塾なし受験」で最も大切なことは、親子の信頼関係です。
親は「わが子は大丈夫だ」と信じること、そして何よりも、勉強して知識をつけることは楽しいという姿勢を背中で見せる心意気が大事です。

受験結果はもちろん気になりますが、それよりも親子で試行錯誤しながら目標に向かって頑張ったという経験そのものが、子どものこれからの人生にとって大きな財産になるでしょう。
もちろん、親にとっても充実した親子の時間になりますので、子育ての一つの醍醐味として楽しんでもらえたらと願っています。

著者プロフィール

鳥居りんこ
鳥居りんこ
とりいりんこ

作家&教育・介護アドバイザー。2003年、長男との中学受験体験を赤裸々に綴った初の著書「偏差値30からの中学受験合格記」(学研)がベストセラーとなり注目を集める。保護者から“中学受験のバイブル”と評された当書は、その後シリーズ化され、計6タイトルが出版された。自らの体験を基に幅広い分野から積極的に発信し、悩める女性の絶大な支持を得る。近著に『【増補改訂版】親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(双葉社)、『【増補改訂版】親の介護は知らなきゃバカ見ることだらけ』(同)、『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(学研プラス)、企画・取材・執筆を担当した『女はいつも、どっかが痛い がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン』(やまざきあつこ著・小学館)、『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(Tadahiko著・双葉社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている 猫みたいに楽に生きる5つのステップ』(鹿目将至著・同)、『神社で出逢う 私だけの守り神』(浜田浩太郎著・祥伝社)、『消化器内科の名医が本音で診断 「お腹のトラブル」撲滅宣言!!』(石黒智也著・双葉社)など多数刊行。最新刊は、取材・執筆を担当した『黒い感情と不安沼 「消す」のではなく「いなす」方法』(やまざきあつこ著・小学館)。

ブログ:湘南オバちゃんクラブ

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