東京医科歯科大学
基本情報
試験時間:2科目120分/問題数:大問3題
分析担当
鍛治 彰均

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 循環、血液、酸素解離曲線、免疫系、血液型 記述式、論述式 標準
2 地質時代、免疫系、発生、腎臓、神経系、動物の行動 選択式、記述式、論述式 標準
3 内分泌系、免疫系、動物の行動、視覚、系統・分類 選択式、記述式、論述式、計算 標準

問題分析

  1. 計10問の出題で、本学必出の「動物の身体」がテーマで循環器、血液、免疫系など頻出問題で構成されている。論述説明も含めて、そのほとんどが知識問題で、合格のためには正解率90%以上で通過したい。問題1 a) イ)「心室中隔に穴が空いている」事から、静脈血と動脈血が混ざってしまう事を把握したい。b)では新型コロナ感染についての問題で、市販の問題集などでは出会えなかったかもしれないが、肺炎→肺胞でのガス交換が上手くできないという推測を立てて対応したい。f)では成人と新生児の血液型判定法の相違を問うが、新生児は抗体検査が行えない事を知っていないと正解できず、差がつきやすい。g)では、免疫寛容の結果、抗A抗体を産生するB細胞が除去されている事を押さえておきたい。h)は頻出問題であり、確実に正解しておきたい。
  2. 計13問の出題で進化、免疫系、発生、排出系、神経系など多岐に渡る。前半の問題1は知識の詳細さは必要だが取り組みやすく、後半の問題2の論述説明問題が手強く差がつきやすい。問題1のb)イ)のアナフィラキシーの病態については詳しい参考書や資料集で学びとっておく必要がある。c)のウニ受精時の先体反応の説明では精子側の先体反応を説明できる受験生は多いが、卵細胞側の振る舞いを必要語句を駆使して説明するのが意外にも困難だったのではないか。問題2の②ではグラフから薬物による鎮静効果の持続時間の規則性を論じて、そのリズムの発現が時計遺伝子の発現の規則性に寄与する事を見抜けばよい。③ではアミノ酸置換によってピリオド遺伝子産物の機能の低下が起きる事を見抜いて、変異体の時計周期が短くなる論理を把握する必要がある。
  3. 計14問の出題で、動物の行動を中心としながら、ホルモン、免疫、系統分類や視覚の知識問題が脇を固めている。問題1はa)からi)までが教科書レベルの知識問題で、満点で通過したい。j)は盲班と黄斑の距離を算出する計算問題だが、三角形の相似比で立式する典型題であるため容易である。問題2は本格的な論述説明が要求され差がつきやすいが、実験の内容と結果のグラフは難解なものではない。ア)でヒキガエルが認識した刺激の特徴を解答し、続くイ)で先ほど解答で提案した刺激の特徴をさらに詳しく分析するために実験計画を立てる必要があるので、自分が立てた仮説と実験計画の間に一貫性が存在するよう注意して論述説明したい。

総評

 例年通り動物生理と動物の行動を中心とし、各大問の中で複数分野の内容を問う構成。出題形式も例年通り、本格的な論述説明が大部分を占めたが、頻出のグラフの作成と描図問題は出題されなかった。本学の特徴として私立医大に見られるような異常に細かい知識問題や紛らわし過ぎる選択肢問題がない事と、実験考察問題が同レベルの大学(例えば旧帝大)と比較してかなり少ない事が挙げられる(全く無いわけではないので注意)。実際、今年度の出題では計37個の解答要求に対して、実に29個が知識問題(定義、理由、仕組み、絵図の知識)である。これらの知識問題を取りこぼさない事が不可欠。教科書・参考書の記述や絵図を精度高く記憶し、速くかつ的確にoutputする訓練を繰り返したい。出題傾向の類似している京都府立医科大学や滋賀医科大学の過去問も演習し、知識記述まとめノートを作成し知識をプールする事を勧める。他の受験生に差をつけるには、前述した知識問題での正解率を90%以上で維持できる能力を前提として、骨太な思考・考察記述と新規探索傾向問題(本年では大問1のg)、h)や大問2の問題2の②、③、④や大問3の問題2など)で得点できる能力の養成が必要。対策としては、同レベルの大学の過去問演習で、着目している生命現象の原理が何なのかを見抜く力、自分で仮説を立ててその内容を評価していく実証力を培う事が必要。その際、講師や友人とdiscussion し「自己の理解の曖昧さの排除」「他者の視点の獲得」「論理的で的確な説明」を意識できると良い。その過程を通してsense of wonder が養われれば素晴らしい。