東京大学
基本情報
試験時間:2科目 150分/問題数:大問3題
分析担当
吉山 茂

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 乳がん・子宮がんの発症の仕組みとその遺伝 語句挿入、記号選択、考察記述
計算・理由記述
やや難
2 ソースからシンクへの炭水化物の移動 理由記述、記号選択、
正誤選択
標準
3 ABO型血液型、SARS-CoV-2の発現について 記号選択、説明記述、
考察記述
標準

問題分析

  1. がんの発症の仕組みとタンパク質の関係を、実験を通して明らかにしていく問題。最後は遺伝についての問題である。体細胞分裂における「組み換え」を遺伝子修復と絡めた問題であり、状況をつかむことに苦労したかもしれない。ただ、実験自体は丁寧に手順を踏んでいるので冷静に読み取ればある程度は解答できたかもしれない。
  2. 問題Eでグラフ描図が出題されるなどバラエティに富んだ問題構成である。東大でよく見かける最後の問題の語句挿入で実験全体の「まとめ」ができるものもⅡで出題された。部分的には解きにくいものも見られるが全体的には例年通りの難易度であった。
  3. 前半はABO血液型の糖鎖についての問題であるが、他の大学などで出題されたものとは趣は少し異なり、アミノ酸についての言及など入試問題としては新しいものであった。後半はこれも多くの大学で見られるコロナウィルスについての問題であり、こちらはやや細かな仕組みについて言及しているが、目新しいものではなく、冷静に解いていきたい。

総評

 大問1ががん細胞、大問2が植物の物質輸送と例年通り動物、植物をテーマにした実験考察であるが、3が遺伝子発現についての問題であり、一昨年以前の生態・進化を扱った大問が出題されていない。昨年から少し扱うテーマに変化が出てきたといえる。ただ、それら一昨年以前の単元がこれから全く出題されなくなることはないと思われるので、広く知識は吸収しておきたい。記述は最大で4行、多くは1行や2、3行とそれほど長くない。ただ、全体で30ページと昨年よりも分量がやや多くなった印象であり、時間のマネジメントが重要になってくる。実験はグラフや図の読み取りをメインにしており、いずれも知識よりも目の前の実験を冷静に考察する能力が求められ、問題集での「記憶」でイメージできるものは少なかった。
 「生物的意義を答えよ」「適応的な意義について」など記述では何を答えるのかをつかみにくいものがある反面、「光合成量の観点から」「機能が保たれているか、の観点から」など記述の方向性を示してくれているものも多い。問いに対して、やみくもに問題文やグラフだけで判断するのではなく、問いの文章からしっかりとつかんでから図表を評価する「問いをスタートとする」考察の方法の確立も必要である。特に、東大のようなテーマが難解なものであるほどこのような方法で「点を取りに行く」ことも必要になってくる。
 「実験・考察問題集」(数研出版)、「思考力問題精講」(旺文社)、「理系上級問題集」(駿台文庫)など難易度の高い問題を扱った問題集で基本的な実験考察のスタンスをつくることが最初になるが、問題集ではどうしても「長さ」が足りないので、早稲田大学、京都大学などの難関校の過去問を東京大学の過去問と合わせて行い「長さ」に慣れていくことが大切になる。また、日頃から最低でも新書、できれば専門書や論文レベルまで目を通しておくことで専門的な実験についての見識を深めておきたい。
 とはいえ、日本最高峰の大学に挑戦する受験生はこれらのことは承知して実行できている生徒がほとんどであるので、生物部の部員、同じレベルを目指す受験生、学校や予備校の理科の先生などとの高いレベルでの「対話」が自分の得た知識や見識のアウトプットの鍵になる。いかに生物について「対話」できる人を見つけるかが最後の数点の+αに繋がってくる。