東京慈恵会医科大学
基本情報
試験時間:理科2科目あわせて120分/問題数:大問3題
分析担当
酒井 啓介

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 浮力と理想気体 記述式
2 電気回路 記述式
3 放射線 記述式 標準

問題分析

  1. 浮力と気体の状態を考える融合問題であるが、近年の国公立大学入試で頻出の問題であるので目新しくはない。特に変わった問題もなく、慈恵レベルの学生であれば完答を目指すべき問題である。
  2. 典型的な電気回路の問題で、振動電流を考える典型問題である。設問数が多いという以外に特に難しい点はない。短時間で完答を目指したい。
  3. 前半は放射線に関する問題である。Bq・Gyといった放射線の強さを表す物理量の計算問題は慈恵レベルであれば警戒しておくべき問題である。後半はX線の発生に関する典型問題である。いずれも典型問題であるが、実際に数値計算を行ってみると計算処理に手間取る。

総評

全体的に「難しい」というより「面倒くさい」という問題構成になっている。特に大問1・2に比べて、大問3の計算量が極端に多く、面倒くさく感じられる。ここで解答時間を浪費することになるであろう。受験物理の対策を誠実に行ってきた学生にとっては特に発想力を要するような問題ではないのだが、数値計算をしなければならない問題が多い。その計算処理に時間を取られてしまい、試験会場では焦ってしまう学生が多いと思われる。普段から慶應医学部の問題などに触れていた学生が有利になる問題構成になっている。
解答に必要のない情報や説明図が多く与えられ、そうした情報を読解しようとしているうちに無駄に時間が過ぎていくというトラップが仕掛けられている点が、慈恵物理の特徴である。出題者が学生に興味をもたせようとしてのことであるが、試験会場ではそうした無駄な情報を切り捨て、解答に必要な情報だけを汲み取る判断力が重要になる。
本年は例年に比べて問題の難易度はかなり易化したといえるが、数値計算処理にどれだけ習熟しているかが合否を分けると思われる。数値計算処理を求める問題は私大医学部ではあまり出題されないが、慶應医学部や国立大学ではよく出題される。そうした大学の過去問なども利用してトレーニングしておけば解答できない問題ではない。試験時間に比べて計算量が多いので、スピーディーな処理能力も養っておくことが有効策である。
標準的な入試問題集に掲載されているような典型問題も出題されるので、こうした問題も軽視はできない。しかも慈恵レベルであれば典型問題は全問正解できて当然だという意識を持っておく必要がある。基本を軽視してはならない。慈恵独特の問題も、その実は標準問題の組合せでできている。「上位校・慈恵を受験するから基本問題なんてやらなくていい」という態度では、受験者平均点すら獲得できないようなことになりかねない。基本を固めた上で発展問題に挑む、というスタイルで学習にあたってもらいたい。その上で計算処理をスピーディーにこなすスキルを磨くことを忘れなければ、慈恵物理も恐れるものではない。基本を軽視して発展問題ばかり演習するという学習が、本番でもっとも役に立たないということだけは指摘しておく。