慶應義塾大学
基本情報
試験時間:90分/問題数:3題
分析担当
小出 信夫

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
〔Ⅰ〕 読解(総合問題:11題) 選択式と
記述式
やや難
〔Ⅱ〕 読解(総合問題:10題) 選択式と
記述式
やや難
〔Ⅲ〕 英作文(課題型:1題) 記述式 やや難

問題分析

  1. 「海洋生態系とサウンドスケープ(音風景)との関係」についてのワシントンポストの記事で、約910語。配点比率は40%ほどであろう。生態系のバランスをサウンドスケープによって取り戻すことを主張する内容で、読みやすい。設問は、選択式が整序英作1題、内容一致1題(7択)、記述式が下線部英訳3題、下線部和訳4題、動詞の空所補充1題[語形変化型](8問)、下線部説明1題(2問[40字以内と80字以内])で構成されている。例年より下線部英訳の問題数が多い。
  2. 「日本の高齢化社会の状況」についての論文で、約930語。配点比率は40%ほどであろう。生涯未婚率と離婚率の上昇による一人暮らしの老人の増加現象は、近年に始まったものではなく江戸時代にも共通に見られたこと、そしてそれがオタク文化によって支えられていることを説いている。高齢化社会と言えば影を落とす問題が多いが、それを日本の通史から見て標準的な形態だということを文化論的観点から説いていて面白い。設問は、選択式が整序英作2題、内容把握1題(7択)、記述式が動詞の空所補充1題[語形変化型](8問)、名詞の空所補充1題[語形変化型](9問)、下線部言い換え1題(2問)、下線部和訳2題、下線部説明1題、下線部和訳と説明との混合型1題で構成されている。なお、本学では高齢化問題は「健康的な加齢」との関係で2019年にも出題されている。その他に東京大2020(前期)、名古屋市立大2020(前期)、高知大2019(前期)、岐阜大2017(前期)、愛媛大2014(前期)、2007(後期)、浜松医科大2013(前期)も参考になる。
  3. 「日本の若者に留学意欲が乏しい理由」について、約100語で英文を書かせる問題。配点比率は20%ほどであろう。昨今流行の「地政学」的観点から、日本の特質を「シーパワー(海洋国家)」と「ランドパワー(大陸国家)」との関係から、海洋に囲まれているがゆえに他国との交流に消極的であるという文化的伝統論の流れで説くことが出来るだろう。また、「政治学」的に、他国と比べて留学生派遣への政府の支援策が乏しいこと、あるいは「経済学」的に、成長率が鈍化している日本経済との関係で、留学費用を賄えないこと、さらには「社会学」的に、ヘイトクライム(hate crime)など治安が悪いことへの不安、「言語学」的に、欧米諸国が英語を中心として言語が似ているのに対して、日本語が全く異質な言語であるため、言語能力への不安が大きいことなどを説くことが出来るだろう。なお、他国と比べて日本の留学希望者数が少ないことをテーマとした英作文の出題校として、神戸大2021(前期)が参考になる。本問は日本人の「内向き志向」という心性との関係で、説明するように求めている。

総評

 全体の設問構成は従来通りで、読解問題と英作文とが選択式と記述式とで出題されている。大問数も昨年度と同じで3題である。また、読解文のテーマは、昨年度と同様に医療系以外のものである。これは一昨年度がすべて医療系であったのとは違うが、本学はもともと医療系以外の分野からの出題の方が多いので、際立った変化とは言えない。難易度に関しては、全て過年度よりも解きやすかったと言える。特に、読解問題は過年度のものよりも読みやすかった。また、英作文も昨年度が「慶應大医学部入学を認められるべき理由」という自己アピールに関わる問題であったことと比べれば、内容的にも書きやすい。これらの点を踏まえて言えば、正規の最低合格ラインは60%ほどであろう。なお、本学のように記述問題を重視する大学は添削指導を受けることが必須である。言うまでもなく、和訳、説明、英作文の解答は一義的ではないので、生徒一人一人の解答が具体的に検討されなければならない。個別指導による添削が望まれる所以である。