東京大学
基本情報
試験時間:100 分/問題数:大問3題
分析担当
首藤 卓哉

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
『仮面の世界をさぐる アフリカとミュージアムの往還』
「仮面と身体」𠮷田憲司
記述式 標準
(昨年並)
『沙石集』無住 記述式
(易化)
『貞観政要』呉兢 記述式 やや易
(やや易化)

問題分析

  1. 仮面は、仮面自身のもつ顔が表象するものと、その仮面を被っている人間を結びつけ、また不可視な自身の顔を可視化する機能があるという考えを、和辻哲郎の論を引用しながら述べる文章であった。問題文の分量は昨年より6行(300字)程度増えているだけでほぼ同量といえよう。設問数も例年通りで、まずは記述4問があり、設問内容も同じで問四のみが100字以上120字以内で本文全体の趣旨を踏まえて説明するものであった。また漢字の書き取りも3問であった。文章が主張する内容自体は難しいものではないが、設問に対する解答を記述する際は相応の力量が求められる。内容が哲学的な文章のため、具体例が随所にあるが、記述の際はその具体例を一般化することが肝要である。
  2. 『沙石集』からの出題。設問は昨年同様の3問で、内容も同様であった。問一は現代語訳3つで、問われる語彙も基本的に忠実なものばかりであった。具体的には「たぶ」(給ぶ・賜ぶ)「かし」(念押しの終助詞)の語彙をおさえておくことや、文章の前後の文脈をしっかりと把握したうえで答えることが重要である。問二に関しては、昨年は短歌の大意を答える問題であったものから、人物の行為の理由を問う一般的な問題へ易化した。「僧」が「(酒を)一滴も飲まない」理由と、一般的な常識に照らしても考えられる内容であり、本文を踏まえれば容易に書ける問題であった。問三も本文全体の内容を踏まえて理由を述べればよく、本年の古文は全体的に易化したといってよいであろう。
  3. 問一が小問3つの現代語訳で昨年と同様であった。問二も現代語訳であるが、「爾(なんぢ)」の対象を明らかにするなどの指示があった。問三は本文の趣旨を踏まえた上での傍線部の説明であり、問題形式は例年通りであった。漢文の攻略でいえることは、まずなにより漢字の語彙力と基本的な漢文句形の知識である。具体的には問一で言えば傍線部b「美」については「賛美」「賞美」というような「ほめる」という字訓を考えられるかどうかが焦点となっている。cやdについては「佐」が「佐幕」など「助ける」の意味であること、また「c直辞 正諫、論道 d佐時」と本文の対になる部分に注目し、語句の構成が「c直辞」は「論道」に、「d佐時」は「正諫」に対応することに気が付ければ容易に解ける内容となっている。問二は、しっかりと後注を読み、「爾」の対象を「劭」ということを把握した上で答えればよい。問三は「顚」が「君主が過ちを犯す」ということを読み取れるかどうかが肝要である。

総評

 全体的な分量はほぼ例年と変わらなかった。現代文は設問の難易は昨年よりも若干難化したと考えられなくもないが、本文自体の内容は平易であり、総合した難易度は例年とほぼ変わらないと言える。古文に関しては、昨年に短歌の大意の説明が出題され難化したことも踏まえると本年はかなりの易化と言える。本文の分量自体は昨年の約1.5倍と増量してはいるものの、代表的な仏教説話集の一つである『沙石集』が出典であり、読解自体も容易であるため、ここでの失点は避けたいところである。漢文は分量が例年通り、内容はやや易化したと言える内容であった。共通テストが昨年、一昨年と連続で漢詩を出題している点、また本学が2016年を最後に漢詩を出題していない点、そして文科省の「高大接続改革」を鑑みると、漢詩問題の出題の可能性が十分あるため、対策を講じる必要があるといえる。