東京大学
基本情報
試験時間:2科目 150分/問題数:大問3題
分析担当
瀬沼 学

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 Ⅰ 原子(半減期・質量欠損とエネルギー)、力学(円運動・運動量)、電磁気(ローレンツ力) 記述 Ⅰ やや難
Ⅱ 力学(相対速度)、電磁気(電界) Ⅱ やや難
2 Ⅰ 電磁気(電磁誘導)、力学(運動方程式)、波動(位相) 記述 Ⅰ 難
Ⅱ 電磁気(ソレノイド・量子ホール効果・重なり合う回路) Ⅱ やや難
3 Ⅰ 熱力学(PVと仕事の関係) 記述 Ⅰ 標準
Ⅱ 熱力学(状態方程式) Ⅱ やや難
Ⅲ 熱力学(1つの圧力で異なるrが存在する場での連結) Ⅲ 難

問題分析

  1. 分野に取らわれず、複合されている問題であった。昔からこの大学は、分野を問わない問題を出してはいるが、かなり顕著な形だった。半減期の話に円運動の周期をからめたり、その他、あちこちの「基本」事項が必要となる。後半は、電磁気も多分に加わるが、分野をまたぐことより、事案が複雑で、何が不要なノイズなのか、何が答えを出すために必要なのかがよく分からなくなる設定である。全体を通して、難問と言える。
  2. この問題もまた、複合されている。前半の方が私は難しく感じた。とにかく、文字が多い。後半は、量子ホール効果の話だが、そもそもそんな事を知っている必要はないのだが、回路が複雑になっているのが若干つらいところ。文字の量の多さ、回路の複雑さ、そして、1と同様、物理的にどの部分を使うのかという事を短い時間で処理するのは、相当難しいと思う。全体を通して、難問と言える。
  3. Ⅰは取りやすいが、ⅡⅢはかなりきつくなる。Ⅱについては、今度は大問1と2と異なり、問題があっさりしすぎていて、何処に注目するのかを自分で考える必要がある問題であり、分かりにくい。Ⅲは、多分、出来ている生徒は、pとrのグラフを書いたと思われる。全体として、難問である。

総評

 東大の場合は、受験生の間で一定層だけが知っているかどうかの知識を聞かれることは少なく、基本的な知識の積み重ねである。しかし、その基本事項をどこで使うのかを、問題文で巧妙に隠してくるので、何が聞かれているのか分からない生徒も多いと思う。そもそも、その時点で、合格には不十分な状況となる。
 さらに、ほとんどの受験生がやったことがないような問題を入れてくる。その時はかなり丁寧に問題文に指定されているので、その誘導に従えばよいのだが、意外とそれはそれで難しい。
 東大の狙いは、このように、いつも決まっているのである。通常の受験生にありがちな、分野ごとに「この問題は、このように解く」という形でだけでは、対応は不可能に近い。というか、どの分野が問題になるかは、実はあまり関係ないことに注意してほしい。原子物理が出たとか大騒ぎしていた受験生もいたであろうが、その前提として、原子物理が出なかったとしても、合格に黄色信号であったかどうかを検証すべきである。
 聞かれる分野は異なれども、聞かれていることは毎年一緒である。複雑な事案に対して、問題を解くための方向性を、ノイズを排除しながら見つけて、更に、高校物理の基本事項にからめて、解答できるのか?という事だけである。その仕組みが分からない限り、合格点は難しい。ただ、今年に関しては、問題自体が少しやりすぎである。