横浜市立大学
基本情報
試験時間:理科2科目あわせて180分/問題数:大問3題
分析担当
谷 卓郎

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 力学(万有引力) 記述式 標準
2 電磁気(電流と磁場) 記述式 やや難
3 光波(薄膜干渉) 記述式

問題分析

  1. 地球の周りをまわる人工衛星の運動。右側に大きく描かれた図がなじみのあるものなので、取り組みやすかったであろう。不安な試験のさなかに出会う友人は心強い。そう安心したのもつかの間、燃料噴射後の速度が相対速度で与えられて嫌な予感が頭をよぎる。質量比と速度比の積という得体の知れないものの算出になると、友人が敵であったことに気づくだろう。さりとて、求められる立式、計算自体は典型的なものなので、精神的に強くあれば困らなかったであろう。よって標準レベルとした。
  2. 正方形枠鉄芯コイル中に生じる磁場。専門的には磁気回路と呼ばれる。類似の問題を経験したことがある受験生は皆無だったと思われる。よってやや難とした。いきなり初見の状況に叩き込まれ、知らない公式を紹介され、まるで上位私立医学部の入試問題に見える。見て見ぬふりをして次の問題に逃げた受験生も多かったであろう。それでも誘導に従って計算していけば、ある程度答えは出せる。後半にある電気回路を図示する問題は、話を追えば解答できる。五里霧中でもできることはあるのだ。
  3. 薄膜干渉。右側にある図も問題集には必ず載っているものだし、問われる内容もそのままのものなので、落ち着いて解くことができる。最初の設問で、加法定理を用いる二つの正弦波の合成計算ができれば、あとは一本道。最後に出てくるシャボン玉の色づく理由も、記憶の中に答えがあるはず。ここでやっと一安心できたことだろう。

総評

傾向が変わった、と判断すべきなのであろうか。出題形式などは変化していない。求められる能力が変わったのだ。昨年までは問題集に載っていそうな問題で構成されていた。それが一転、大問1の「なぜこの式の値を出すのか」と(受験生にとっては)意図がつかみにくい問題だけならまだしも、〔2〕で「磁気回路」という教科書にないものを題材とした問題が出題された。今までにあまり出題されていない性質の問題、物理の学力に加えその場の対応力が必要とされる問題である。上にも書いたが、上位私立医学部で求められる能力であり、国公立大学ではあまり見かけない。本学の過去問をやりつくしただけの受験生は戸惑ったであろう。「過去問演習が合格のカギ」と謳う予備校、塾は多いが、それが全てではないのだ。アンチ過去問原理主義の筆者としてはそれみたことか、と思ってしまう。
では手が出ない問題ばかりかというとそうではない。〔1〕は人工衛星の分裂という、よくある問題設定である。大問を通して計3回もある分裂の計算は途中過程が省略でき、最後の設問では第2宇宙速度という、これまた典型問題が出題されていることも合わせると、確保しておきたい問題である。執拗に問われる質量比と速度比の積の意味が不明なまま解き進めることになる点を除けば、引っかかることもないだろう。〔2〕は始めの3問と、途中をとばした(6)の電気回路を図示する問題には手をつけておきたい。途中にあるキルヒホッフ第2法則との対応ルールは、すぐ後に続く設問ではなく次のページで必要とされ、ではその続いた設問はどうするかというと、その前のページからの推測で解くのだと思われる。人生のかかった入学試験中にそんなことに対応できた受験生がいたのであれば、見事だと思う。
対策であるが、予備校のテキストや書店に並ぶ問題集には教育的配慮に溢れた問題が載せられており、大問2のような問題には対応していない。過去問に囚われずにさまざまなタイプの問題を解くことでどんな問題にも対応できる地力がつくのだ。さりとて、基本、典型問題の習得は必須である。それが終わってから、広く問題を解く武者修行をしていこう。見たことのないタイプの問題にあたるのは無茶に見えるかもしれないが、それをくぐりぬけ、問題に対応する呼吸を身につければ、岩をも一刀両断できるほどの力をつけることができるだろう。