横浜市立大学
基本情報
試験時間:2科目180分/問題数:大問3題
分析担当
深石 真行

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 【理論】
実在気体の状態方程式(ファンデルワールスの式)と圧縮因子Z
記述・論述・
計算
やや難
2 【有機・高分子】
(1) タンパク質の構造推定、
(2) 有機化合物の選択的反応
記述・論述・
計算
3 【無機】
マンガンとその酸化物の性質
記述・論述・
計算・図示

問題分析

  1. 「実在気体の状態方程式(ファンデルワールスの式)と圧縮因子Z」から求めた解と化学的性質の関係に関する考察問題。ファンデルワールスの状態方程式自体は本校の受験生であれば知っていると思われるが、圧縮因子Zに関する式とグラフはほとんどの受験生が初見であったであろう。教科書で目にする実在気体のグラフは横軸が圧力であるが、今回の横軸はモル濃度であった。モル濃度と圧力は比例するので、教科書で目にするグラフと同様に考えていけば良い。与えられている式は二次方程式であり、(1)〜(4)は、求めた解と分子間力あるいは分子自身の体積との関連性を解答すれば良いだけである。(5)と(6)は、定数化されている温度を変数として動かすとグラフがどう変化するかを考える必要があり、物理的な思考力がないと厳しかったのではないだろうか。
  2. 本問は、(1)と(2)の2つの問題で構成されている。(1)の問題は、ペプチドにアルコールが結合した複合タンパク質Aの構造を推定する問題である。化合物Dは、元素分析の結果と分子量から決定される。窒素については特に情報はないが、化合物の構造を考えれば窒素原子の数が分かる。アミノ酸の推定に慣れていないとやや戸惑ったかもしれない。化合物Dとアミノ酸Eの決定までは特に問題なく解答可能であるが、化合物Fの構造を決定できたかが焦点となる。化合物Fが決定できないと化合物Aも決定できないので、ここは差が付いたであろう。(2)の問題は、本校の受験生であればマルコフニコフ則がすぐに思い付いただろう。ただし、知識として知っていたとしても、100字記述で書くとなると難しかったのではないだろうか。
  3. 「マンガンとその酸化物」をテーマとした問題。(1)は塩素の実験室的製法に関する問題で、(2)は過マンガン酸カリウム滴定に関する問題である。「塩素を捕集する実験装置」の概略図を描く問題が出題されており、特に難しいテーマではないが、解答ポイントも細かく指定されており、少し差が付いた問題かもしれない。過マンガン酸カリウム滴定の実験上の注意点に関する論述が出題されていたが、こちらはどの問題集でも一題は載っているような典型的なものであり、特に差はつかなかったであろう。

総評

 本年度は、全体の分量は昨年度と大きく変わらないものの、実在気体の状態方程式(ファンデルワールスの式)と圧縮因子Zから求めた解に対して化学的な考察をする問題や難易度の高いタンパク質の推定の問題が出されており、昨年度と比べてやや難化した印象である。問題の構成としては、理論化学の考察問題、有機化合物の推定問題、無機化合物の知見に関する問題という大きな3つのテーマから構成されており、例年通りの横浜市立大学らしい構成だったと言える。
 横浜市立大学の入試問題攻略のポイントとしては、「初見テーマに対する考察」、「難易度の高い構造推定」、「論述問題や図示問題」に対応することである。私大医学部とは異なり、試験時間は十分に与えられるので、初見テーマにじっくり腰を据えて思考することに慣れる必要がある。理論化学の問題は、与えられた方程式の解に対して化学的意味を考察するような問題がよく出題されるので、ある程度の数学力は必須である。有機化合物の構造推定に関する問題も例年難易度が高い。このような問題に対応するため、国立の上位校の過去問でしっかりとトレーニングを行い、思考力を高めていく学習をして欲しい。また、本校では論述問題への対策も必須である。本校で求められる論述問題は決して奇を衒うような問題ではなく標準的な問題集で十分であるが、100字以上の問題も多く、普段論述する機会がないとかなり苦戦することが予想されるので、対策はしっかりと行って欲しい。