東京大学
基本情報
試験時間:理科2科目150分/問題数:大問3題
分析担当
曽川 潤

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 Ⅰ 油脂の構造決定・オゾン分解 記述 Ⅰ やや易
Ⅱ 分子式C5H10のアルケンの構造決定・マルコフニコフ則とザイツェフ則 Ⅱ 標準
2 Ⅰ 石炭、天然ガス、または石炭とアンモニア混合での火力発電によるCO2排出量比較 記述 Ⅰ 標準
Ⅱ 錯イオン・プルシアンブルーの結晶構造 Ⅱ 標準
3 Ⅰ 鉄の製錬・CO2の海洋貯蔵 記述 Ⅰ 標準
Ⅱ 抗体Abとサイトカインの結合における反応速度と化学平衡 Ⅱ やや難

問題分析

  1. Ⅰ オゾン分解等の部分構造のデータから油脂の構造決定を行っていく問題。ジアゾメタンによるカルボン酸のメチル化といった初見の情報もあるが、誘導に乗りやすく難易度としては比較的易しい。油脂を構成する高級脂肪酸としてステアリン酸の分子量が284であることを覚えていれば、素早く解答できたであろう。落とせない大問であった。
    Ⅱ アルケンへの水素付加およびアルコールの脱水に関する大問。初手の条件整理を副生成物まで考えて行う必要があり、マルコフニコフ則・ザイツェフ則における反応中間体である陽イオンの安定性を考慮する問題もあったため、処理力が問われた。
  2. Ⅰ SDGsにも関連する火力発電について、アンモニアの燃料としての利用をテーマとしていた。イでは反応式3よりアンモニアの生成熱を読み取ることになるが、生成熱の定義よりNH31molでの反応熱に換算しなければならない。隙のない基礎事項の完成と正確な利用が求められた。
    Ⅱ 顔料であるプルシアンブルーについて、図の結晶構造とFe2+, Fe3+の個数比、結晶の電気的中性より組成式を決定することが求められた。図より鉄イオン2個でシアン化物イオン6個であることに着目することが、素早く解答するための要点であった。
  3. Ⅰ 鉄の製錬について段階的な還元反応が問われたが、事前知識が無かったとしても反応物と生成物が明確なため、解答できる。カでは、文章読解から最適なグラフの選択を行う必要があった。下線部②~④の周囲に根拠部分があるため、難易度は高くない。
    Ⅱ 抗体反応に関する反応速度・化学平衡が問われた。1問目キのdでは、[Ck]を消去するために物質収支を考える必要があった。また、続くク~シでも誘導は分かりやすいものの、思考量・計算量がやや重たく、相対的に時間が掛かる。本年度の問題量を考えると、時間が足りなかった受験生が多いと予想される。取るべき問題の選択もポイントであった。

総評

 問題数は、昨年度の小問33題から本年度30題とほぼ変わらなかった。難易度は、有機分野にて油脂の構造決定といった典型問題が出題されたため、昨年度よりもやや易しい。しかしながら、解答時間に対する問題量・思考量・記述量が多く、満点を取ることは難しいため、合格ラインの突破には取るべき問題の選択が重要であった。
 本学の化学の特徴は、幅広い基礎知識・高い思考力と処理力・的確な論述力である。これを踏まえて、本学への対策を考えるとき、やはり土台となるのは幅広い基礎知識である。正確な基礎知識なしに思考問題には対応できない。そのためには、教科書で漏れなく基礎事項を確認し、何も見ずに自身の言葉で説明できるよう練習すると良い。その際、同時並行で教科書傍用問題集での基礎演習も行うと効果的である。ただし、「問題が解ける」をゴールとするのでなく、「説明できるか」を指標とすること。その後、本学をはじめとする旧帝大等の過去問で思考問題に挑戦し、総合的に力を養うと良いだろう。