東京大学
基本情報
試験時間:理科2科目あわせて150分/問題数:大問3題
分析担当
菊川 敏一

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 4-N-アセチルアミノシクロヘキサノンとフェノール樹脂の合成 記述式 やや難
2 I リンの化合物、燃料電池 記述式 標準
II 黄銅鉱からの銅と鉄の分離・精製 記述式 標準
3 I ヨウ素滴定 記述式 標準
II ペロブスカイト型の結晶格子 記述式 標準

問題分析

  1. 前半はアセチルアミノシクロヘキサノンの合成経路からの出題である。既習の反応を初見の有機化合物にあてはめて考える問題で、東大では頻出である。一見、難しくないように見えるが、各実験操作が簡単には読み取れないようなつくりになっており、高いレベルでの有機化学の基礎知識が要求される。配向性に関する知識があると有利に解答できたであろう。環状化合物の立体異性体を数える問題も例年同様に出題された。後半はレゾールからフェノール樹脂を合成する実験からの出題である。クレゾールを用いて樹脂を合成した際に1つの生成物が硬化する理由を述べる問題では、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の立体構造の違いをよく理解し、あてはめていく必要がある。
    1. I リンの単体・化合物、リン酸型燃料電池に関する問題である。リン酸カルシウムをコークスにより黄リンへと還元する際の反応式を書く問題、十酸化四リンの分子構造をかく問題が目新しかった。燃料電池の問題は典型的な問題で、反応式を書かせた後に発電効率を計算させる平易なものであった。
    2. II 黄銅鉱から銅と鉄を精製する問題である。イオン化傾向、金属イオンの反応、銅の電解精錬などの無機化学の総合問題であるが、文章を読めば理解できる。
    1. I ヨウ素滴定により硫化水素の物質量を求める問題である。計算自体は標準的であるが、滴定によって求められる硫化水素の物質量の誤差を減らすための実験上の工夫を答えさせる問題は良問である。
    2. II ペロブスカイト型構造のイオン結晶からの出題。結晶に関する知識と与えられたイオン半径のデータから考えていく問題である。東大では類似の問題が近年よく出題されている。

総評

東大の大問はパートⅠ、パートⅡに分割されることが多い。昨年度は大問1、2は分割されていなかったが、本年度は1は分割されていないものの2つのテーマからの出題、大問2、3は分割されている。実質的には大問6題に相当し、過去の東大化学に戻った印象を受ける。テーマとしては、東大でよく出題される気体の性質、溶液の性質、反応速度、化学平衡といった難しい理論化学の問題が出題されなかったため、全体としては解きやすいものであった。ただし、問題数は増加しており、昨年とレベルはさほど変わりない。受験生のレベルを考えると、合格するためには相当な高得点が必要になるだろう。典型問題、知識問題は素早く解き切った上で、思考力が必要な論述問題をどれだけクリアできたかがポイントである。
実験操作手順を読み取り構造を考えていく問題や、酸化還元滴定における誤差を減らすための実験上の工夫を答えさせる問題、データ表を用いて考える問題など、2020年度大学入試改革を意識した出題が多い。現象や理論を理解し、座学だけでなく実験にも興味をもって学習してきた受験生にとっては簡単に思える問題も、問題集をひたすら解く学習ばかりをしてきた受験生にとっては難しいだろう。これから、国公立大学医学部を目指す受験生は、問題を「解く」だけでなく、教科書を「読む」学習の重要性を再認識してもらいたい。