東京医科歯科大学
基本情報
試験時間:2科目120分/問題数:大問3題
分析担当
鍛治 彰均

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 消化器、循環器、
排出器、免疫、遺伝子
選択式、記述式、
論述式
やや易~標準
2 生態系、進化・系統、
ホルモン、発生、遺伝子発現
選択式、記述式、
論述式、グラフ作成
標準
3 進化・系統、
循環器、動物の行動
選択式、記述式、
論述式、描図
標準

問題分析

  1. 計13問の出題で本学必出の「動物の身体」がテーマである。論述説明も含めて実に13問全てが知識問題であり、満点で通過したい。問題1 a) 3)では肝門脈には毒性の高いアンモニアが高濃度で流れている事、肝臓での解毒が期待できない事を踏まえておきたい。d) 2)は典型題ではないが、肝細胞が破壊されたときに、細胞内にあるタンパク質が血液中に漏出する事を推測できれば良い。g)も問題集では出会いにくいが、機能異常となる原因や仕組みの追求に有用であることを想起するのは困難ではない。
  2. 計10問の出題で生態系、進化・系統、ホルモン、発生、遺伝子など多岐に渡る。問題1a)は樹林についての詳細な知識が必要で手強い。d)e)も同様に教科書レベルの単純な知識問題であるが、記憶が曖昧であると取りこぼしてしまいそう。f)は巨大染色体におけるパフの構造と振る舞いについての知識問題であり、他大学でもよく問われているので研究しておきたい。g)は環境保全のテーマとして頻出のサンゴの生態に関する出題であった。被度と攪乱に対する耐性の強弱の関係を踏まえて説明すればよい。問題2のグラフ図示問題では、タンボコオロギの長日型/短日型を明確にして棒グラフや折れ線グラフを作成すれば良い。
  3. 計10問の出題で進化・系統、循環器の変化、動物の行動が中心である。問題1の前半a)〜g)はいずれも教科書レベルの単純な知識問題であり、満点で通過したい。h)は本格的な描図問題であるが、哺乳類、魚類ともに心臓の構造と循環器系の関係は有名であるから難しくはない。ただし、日頃から絵図を自分の手で描く練習をし、コツやポイントを理解しておかないと本番意外と悩んでしまう。問題2は1)2)ともに類題による演習経験が少なく、本格的な推察が必要となり本年のハイライトとなる出題である。1)では着目する魚類のゲノムサイズが大きい事から、他の生物種よりも進化に長い時間がかかり、種の多様化も豊富になったと推察できれば良い。2)では与えられた実験計画の問題点の指摘とその改善案の説明が要求されている。実験の諸条件(キンギョの購入時期、物体の色、学習時間など)を書き出し、一つずつ条件が実験結果に及ぼす影響や効果を論理的に評価して説明できれば良い。

総評

 出題内容は例年通り動物生理と進化・系統を中心とし、各大問の中で複数分野の内容を問う構成であった。出題形式も例年通り、本格的な論述説明が大部分を占め、さらにグラフ作成、図示、実験デザインの要求といった様式も変化は無かった。
 本学の生物の特徴として私立医大に見られるような異常に細かい知識問題や紛らわし過ぎる選択肢問題がない事と、実験考察問題が同レベルの大学(例えば旧帝大)と比較してかなり少ない事が挙げられる(全く無いわけではない)。実際、本年度は計33個の解答要求に対して、29個が知識問題(定義、理由、仕組み、絵図の知識)である。教科書・参考書の記述や絵図を精度高く記憶し、速くかつ的確にoutputする訓練を繰り返したい。また類似傾向の京都府立医科大や滋賀医科大の過去問も演習し、知識記述まとめノートを作成する事を勧める。
 他の受験生に差をつけるには、前述した知識問題での正解率を87%以上で維持できる能力を前提として、骨太な思考・考察記述と新規探索傾向問題(本年では2の問題2の1)2)や3の問題2の1)2)など)で得点できる能力の養成が必要である。対策としては、同レベルの大学の過去問を演習する中で、着目している生命現象の原理が何なのかを見抜く力、自分で仮説を立ててその内容を評価していく実証力を培う事が望まれる。その際、講師や友人とdiscussion し「自己の理解の曖昧さの排除」「他者の視点の獲得」「論理的で的確な説明」を意識できると良い。その過程を通してsense of wonder が養われ、興味を持って生物の学習が進められれば素晴らしいと考える。