東京慈恵会医科大学
基本情報
試験時間:2科目120分/問題数:大問2題
分析担当
中村 達郎

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 Ⅰ 力学(等加速度運動)
Ⅱ 熱力学(気体の定積変化、定圧変化)
記述式 標準~やや難
2 Ⅰ 電磁気(電流と磁場)
Ⅱ 波動、原子(質量とエネルギーの関係導出)
記述式 やや易~難

問題分析

  1. Ⅰ 等加速度直線運動の問題。問1は等加速度運動の距離と時間の関係、また運動方程式、問2は仕事とエネルギーの関係、問3は仕事の定義から解答できる。問4は面白い。等加速度運動の関係式や運動量と力積の関係で解こうとすると3次式になり行き詰るが、v-tグラフから距離を読み取るという発想があると即答できる設計だった。
    Ⅱ それぞれの前問がヒントになっている構成。問5は単原子分子理想気体における定圧変化でのエネルギーの分配が鍵。比を用いて答えると楽だろう。問5で求めた仕事量から仕事とエネルギーの関係に持ち込めば問6の質量が求められ、そこから求められる圧力差を利用すれば問7の定積状態の体積が求まるという流れだった。ただし、問7では定圧変化から定積変化へと時間を逆行して注目し直す必要があり、気づかない人もいただろう。問8は二原子分子についての単なる知識問題。
  2. Ⅰ やや見慣れない設定。帯電した棒の移動を電気の流れと理解し、電流の定義に結び付けて考えられたか。それさえクリアできれば電流のつくる磁場などの公式も明示されており、むしろ易しい問題だろう。完答したい。
    Ⅱ 相対論的考察から質量とエネルギーの関係を導出するという発展的内容。その割に誘導が弱く苦労した受験生も多いと思う。問6は酷な問題。この誘導文から論理的に解答することに無理がある。指示された文字などの状況から、AからみたB同様、Bから見たAも速さvで遠ざかっているのだから同じエネルギー比が適用できる、と推論する他ない。問7、問8は移動する反射板によるドップラー効果。正答したい。問9は前問ができていれば代入のみ。問10は問6をクリアしていれば同じ考えを用いる。このときどちら向きに光子が進んでいるかによって適用する比が異なることに注意。問11は誘導文に従い、Bから見た粒子Sについてのエネルギー保存則をたてよう。近似式も指示通りに。このあたりは例年通りの読解力勝負だ。

総評

 例年は大問3題の構成であったが、本年度は大問2題のそれぞれに2つのパートが入る実質大問4題の構成になった。また「日常的な物理現象」や「人体の仕組み」に物理学モデルを適用して考えるという慈恵医大特有の問題が見られなかった。結果、力学、熱、波、電磁気、原子をまたぐバランスのとれた問題構成となった。ただし、それで問題が易しくなったわけではない。むしろ難化したと思われる。大問1は既定値の与え方、問いかける順番、解答に用いる文字の指定が独特だった。そのため、Ⅰでは運動方程式、運動量と力積、仕事とエネルギー、等加速度運動における時間、変位、速度、Ⅱでは熱力学第一法則、力のつり合い、状態方程式など、どの関係を用いるべきか考えさせる巧みな問題に仕上がっていた。たとえ標準的な問題に見えたとしても惰性で解くことは困難で、情報を整理し、どこに着眼するかという能力が高度に問われていた。このような問題に対処するためには難度の高い問題集を演習することは当然だが、演習時に「合っていた」で満足することなく他の解法を探す習慣も身につけたい。大問2Ⅱは上述のように誘導が弱かった。今後もこのような出題がある可能性があり、良い意味での割り切りも必要だ。高校物理の範囲を逸脱した課題を誘導付きで解答するという問題は京都大学によく見られる。余力のある受験生は京大の過去問を解いておくとよい。本学の試験はスピード勝負というより、状況設定の正確な読みとりが勝負を分けることが多いように思う。初見での読解力を鍛えるためにも、演習においては簡単に解答を見るのではなく粘りに粘って考え抜くことも心がけたい。