順天堂大学
基本情報
試験時間:2科目120分/問題数:大問4題
分析担当
曽川 潤

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 小問集合:
原子の構成、コロイド、アルミニウム、錯塩、逆滴定
マーク式 やや易
2 理論:
気相平衡(化学平衡と気体)
マーク式 標準
3 有機:
構造決定(エステル、ケト・エノール互変異性、異性体、分子内脱水)
マーク式 やや易
有機:
融合問題(芳香族化合物の酸化、エステル合成、弱酸遊離、反応の量的関係)
記述式 標準

問題分析

    1. 例年通り小問集合が出題された。質量数と中性子数に注目した計算、コロイドに関する用語と現象、アルミニウムと塩酸の反応とその量的関係、錯塩の分析と逆滴定が問われた。錯塩の分析は初見の受験生もいたと思われるが、実験の読解は難しくなく誘導も明らかなため、確実に得点に結び付けたい。落とせない小問ばかりであった。
    2. 気体の密度をテーマにした化学平衡と気体の応用問題であった。問2(a)における「四酸化二窒素の体積」が初期量なのか平衡時の量なのかが分かりにくいものの、場合分けをして答えを導くと選択肢から前者であることが分かる。この点を除けば、医学部入試としては標準的な難易度であると言える。
    3. エステルの構造決定に関する大問である。加水分解生成物がケト・エノール互変異性により安定な構造のケト型となることがポイントである。ただ、問題文にリードとしてケト・エノール互変異性の具体例であるビニルアルコールからアセトアルデヒドへの異性化が明示されており、ケト・エノール互変異性を一般化して暗記していなくても解答できる設計となっている。また、問3に決定すべきエステルの構造式が選択肢としていくつかの候補とともに記載されており、選択肢から解答を絞り込むという工夫が行える問題であった。これら2点を考慮すると、やや易しい問題であり、短時間に完答できた受験生もいたであろう。
  1. トルエンの酸化とエステルの合成および精製に関する実験が問われた。実験(i)における、トルエンと安息香酸の混合物に塩基性条件下で過マンガン酸カリウム水溶液を加え反応させるという操作がどのような反応性かを判断できたかが勝負であった。読解の鍵はトルエンの量が減少していること、黒色沈殿が生じていることの2つであり、これらからトルエンの側鎖の酸化が起きMnO2の黒色沈殿が生成されたと考えられる。また、安息香酸の投入量等が未知数Xで表されておりこのXの決定が問われたが、実験(i), (ii)での物質量の変化を追っていけば解答できる。ただ、もしこの小問ができなかったとしても、他の小問に関連しないため、合格ラインの突破には大きくは影響しなかったと考えられる。全体としては標準的な難易度の大問であった。

総評

 問題数は小問31問と昨年度と変わらないものの、問題の難易度がぐっと下がり、いわゆる捨て問もなかったことから、近年で最も解きやすい問題であった。それだけに化学単独での合格ラインは昨年度に比べて大きく上がることが予想される。正答率80%が一つの目安になるのではないだろうか。
 昨年度より問題が簡単になったものの、取るべき問題を制限時間内に解き切ることが重要であることに変わりはない。この点から、本学の化学の攻略としては、医学部入試の王道である高い基礎力の養成が第一に挙げられる。そのため、来年度に向けた対策としては、頻出の応用・発展問題までであればどの問題であっても素早く正確に解答できるようにすることが肝心である。具体的には「セミナー化学」などの教科書傍用問題集であれば発展問題も含めて解答しきる実力をつけることが求められる。ただ、演習の際には解法の丸暗記にならないように原理からの本質的な理解が得られているかのチェックを必ず行うこと。具体的にはなぜその解答になるのかを自身の言葉で説明できるかを指標としてみると良い。日々の学習の延長線上に入試があることを忘れずに、目の前の学習に取り組んでもらいたい。