2020.12.9

ウィズコロナ時代の
中学受験

本音で語る入試動向
中学受験者数は景気と
人口で決まる
コロナ禍でも受験生が
減らないワケ

森上教育研究所 所長 森上展安氏

コロナ禍でも冷めない
中学受験熱

今回の新型コロナによる経済の落ち込みは諸統計を見る限りリーマンショックをはるかに上回るものの、何故か小学校6年生を対象とした中学受験の模試の実受験者数はほぼ前年比100%だった。より正確に言えば人口減少が約2%なので、その分の減少が認められる程度。要は受験率が前年並みだという少々驚きの状況となっている。
そのどこが驚きなのかというと、これまで中学受験者数は景気動向に左右されてきたからだ。近年の大幅なダウンはリーマンショックと東日本大震災の時のもので、最も沈静化したのは2015年、2016年辺りだった。

中学受験者数は景気動向に
遅れて連動する

中学受験の場合、3~4年の準備期間を置くのが通例のため、リーマンショック翌年の入試2010年は特段の影響はなく、減少は2011年からだが、その3月に東日本大震災が起きているので、2012年以降はダブルで沈静化したのだと思われる。そして底となったのは2015年で、2011年より5年間は年々下降していくに任せたという状況だった。
2016年から上昇に転じ、続く4年間は、年々上昇している。ただこの間の2018、2019年は一都三県の小6人口が大きく増えていることも加わったし、折からの大学入試改革と相補うように23区の私立大学の定員厳格化も行われたため、私大が難化して主だった私大付属も人気が急伸したりした。
上昇し始めて5年目の今年が昨年並みとなるとほぼ2009~2010年頃のリーマンショック直前の受験者数となり近年のピークに並んだ状況。このように変化が漸進的な最大の理由は、受験希望者が3年生、4年生、5年生と次第に増えていき、6年生では5年生と同じくらいというボリュームの変化が通例だからだ。

コロナ禍でも受験者が
減らないメカニズム

つまり不況が小学校の何学年の時に生起したかによって低学年ほど受験に参戦している人数が少ないために、そのまま参戦しないで公立進学に切り替えるから、不況の爪痕は2年、3年と経つうちに減少幅が大きくなるというメカニズムが働くということになる。
好況は逆で、低学年から参加率が高くなるために次第に上昇していくというわけだ。
その転機は上記した通り基本は景気。何故なら中学受験は家計が全てだから。後は人口。少子化は日本全体の傾向だが、東京だけは増加している。流入人口による社会増によるもので、この数年は特にそれが下支えしていた。
今後は小6の東京人口は今のところあと数年増える。学校人気は基本的には近隣商圏なので、コロナ禍で郊外のニュータウンの人気が復調していると報道されているなど、湾岸一辺倒の学校人気トレンドが今後どう変化するか注視したい。

小学校低学年から
中学受験を始める層

因みに小学校低学年から参戦している中学受験生は教育熱心な家庭が多く、脱落もしなければ早期ほど高学歴志向であり難関校志望の傾向がある。例年男女とも5,000人くらい首都圏にいて、この層の数字はここ10年くらい変化していない。
この各5,000人に入るような受験生は早くから学習の構えがしっかりしていて、基礎ができている。ボキャブラリーが多く計算ができる。親子の会話が丁寧で活字文化が日常にある。音楽に親しむ家庭が多い―この辺りが最大公約数だろうか。いわゆる文化資本が充実している家庭と言ってよい。

わが子の「粗探し」でなく、
ぜひ「エクボ探し」を

一方、過ぎたるは及ばざるがごとしという金言があるように、注意しなくてはならないのが過剰適応に我が子を追い詰めてしまうこと。小学校低学年の子どもは素直なので、いくらでも言われたことをやろうとする。だからといって追い込んで煽るようなことをすると、無意識のうちにお子様は精神的に辛い思いをする場合が少なくない。
メルクマールはワクワク楽しげにやっているかどうかということだろう。この層の親に共通していることは親自身が「勉強しなさい」と言われたことがないということかもしれない。勉強が習慣化していて殊更指示命令されて勉強に取り掛かってはいない。我が子に接する場合はそのことを思い出して、どのような躾をされたか親自身の振り返りがなされているようにも思う。
ただこの時期のお子様にとって最大のエネルギー源は両親の愛情と両親の仲の良さに尽きると思う。スキンシップがとても大切なので、コロナの日常は余り好ましくはないが、そこは工夫次第だろう。
そうしたことを含めて親は子どもを他人と比較したりすることよりも、子どもの反応(発語、発想、行動、音感)をいかに読み取るか、わが子はどこか天才かもしれないという粗探しならぬエクボ探し(?)を楽しまれますよう。