2022.12.02

学校行事シリーズ

武蔵中の校外学習

すべて手づくりの校外学習で
「自調自考」の土台を培う

森上教育研究所 所長 森上展安氏

「わくわく」と「わいわい」を大切にした6年間

 武蔵の行事は、生徒が6年間で成長する物語の一環として構成されている。武道や華道などでよく言われる「守」「破」「離」の3段階でステップアップできるように、まずは学校が用意したプログラムに則って同級生との交流を深め、次に型を破って生徒自ら手掛けるプログラムで学年を超えた仲間と理解し合い、受容することを学ぶ。そして最終的には学校で学んだことから離れ、独創的で柔軟な真のリーダーとして未来に羽ばたくことができるように育てていく。
 校長の杉山剛士先生は、武蔵の教育では「わくわく」と「わいわい」を大切にしているとおっしゃっている。なかでも伝統のうえにさらなる工夫を凝らした数々の行事は、どれもとても魅力的だ。先生や仲間とともに楽しみながら学びを深め、「自調自考」の姿勢を培う重要なポイントになっている。

山上(さんじょう)学校」で武蔵生としての自覚を高める

 学校が用意するプログラムには、中学生の校外学習がある。武蔵の校外学習はすべて「手づくり」だ。中学1年生は、5月に埼玉県毛呂山町の学校山林で行う遠足を経て、7月に群馬県赤城山の「武蔵学園赤城青山寮」を利用して行う3泊4日の「山上学校」で武蔵生としての自覚を高める。
 学校が用意するプログラムとはいえ、生徒の自主性を尊重する武蔵ならではの伝統は活かされている。2日目、3日目は、10人ほどのグループに分かれ、自分たちで計画を立てて地図を頼りに山登りをする。それぞれのグループの最後尾に担当の先生は付くものの、危険なことがない限り、口出しは一切せずに黙って見守っているという。当然、失敗したり、仲間と衝突することもあるが、すべて自分たちで解決しなければならない。この経験を通して、生徒は自ら考え、仲間と協力して乗り越える姿勢を身に付けていく。
 さらに中学2年生では1年間かけて群馬県みなかみ町について探究学習を行い、その実体験として「民泊実習」を実施する。今年度はコロナ禍の影響で民宿やペンションに宿泊することになったが、そこで家業の手伝いなどをさせてもらった。
 初日の生活体験、自然体験、歴史探訪、環境学習の4コース別の学習を経て、現地の方々と交流しながら地域の課題について考え、その後の探究につなげていく。家庭や学校から離れ、様々な人と触れ合うことで、「丸ごと人間が育っていく」貴重な経験を積むことができる。
 このほか、中1の12月に神奈川県箱根山で「地域巡検」、中3の11月に山梨県清里高原で「天文実習」を行う。実物や自然に触れ、教室で学んだ知識をさらに深めていく。校外行事では、最寄り駅など「現地集合現地解散」が多いのも伝統だ。

「いかにみんなが楽しめるか?」を重視

 一方、生徒自身が手掛ける行事には、武蔵の三大行事と言われる春の「記念祭」、秋の「体育祭」、冬の「強歩大会」が挙げられる。生徒の自治の中心である代表委員会のもと、それぞれの行事ごとに小委員会が設けられ、企画運営のすべてを担う。記念祭は会計、装飾、模擬店、警備など20ものパートに分かれ、中学生も多数参加して先輩の指導を受けながら活動する。体育祭は1日目は球技大会、2日目は団体競技で学年縦割りの色別対抗だが、練習などの強制はなく、「いかにみんなが楽しめるか?」を重視して行う。先生もチームを組んでリレーに参加したり、球技で優勝したクラスと対抗戦をしたり、大いに盛り上がるそうだ。こうした行事では、リーダーシップを発揮する先輩の姿に自らの将来のロールモデルを感じる機会でもある。
 また、強歩大会は25kmほどのコースを設定し、いくつかのチェックポイントを通ってゴールまでを歩く。都内の名所めぐりなど、その年のテーマを決め、小委員会の生徒が下見をしたり、多くの生徒が公道を歩くため警察に相談をしたり、綿密に計画を立てる。厳しい制限タイムがあるわけでもなく、順位を競うわけでもなく、ただ「歩くことを楽しむ」というのだ。
 武蔵は都内にありながら、美しい小川が流れる雑木林に囲まれ、サッカーグラウンドのほかに野球場も有する広大なキャンパスを誇る。図書館や食堂も完備され、菜園やヤギ小屋まである。理科・特別教室棟には数々の実験室はもちろん、フーコーの振り子や天体観測ドームも備え、昔から大切に保管されてきた貴重な標本も展示されている。とことん「本物を見る」ことにこだわり、少年の好奇心を掻き立てる仕掛けがちりばめられている。
 行事ではないが、高校になると総合的な探究の一部であるゼミ形式の「総合講座」(主に高1)が開講する。「これからの医療を考える(都市・地方・海外の諸課題)」、「SDGs実践講座〜東北探究」「ドローン研究」等々13講座。ゼミ生は各数名程度だが、中学でのさまざまな体験を通して胸に抱いた興味を深掘りできる仕組みとも言える。
 校内の環境も学校行事も、本物を見て知るための仕掛けの一つであり、生徒は武蔵だからこそ味わえる豊かな学校生活を満喫している。まさに自分のやりたいことを探し見極める6年間になるだろう。