2020.11.13

第 4 回

1回入試校 VS
複数回入試校

1回しか入試を行わない
御三家中のブランド力
~2月1日1回入試の学校と、
複数回実施する学校の違いとは?~

森上教育研究所 所長 森上展安氏

男女御三家・早慶など
1回入試校は特別な存在

中学受験ウォッチャーの立場から言うと、1回しか入試を行わない学校は特別な位置を占めている。それはたった1回の入試で募集定員を集めることができる、いわばパワーブランドだからだ。
具体的には、御三家の男女校(男子は駒東も)がこれにあたり、これらは2月1日に1回しか入試を行わないので、これ以上のグレードはない。ただ、東京の御三家だけでなく、神奈川の女子御三家と言われるフェリス・横浜雙葉・横浜共立のうち、フェリスと横浜雙葉も2月1日の1回入試だ。
これらは進学校だが、附属校にも1回入試校はあり、慶應普通部と早大学院の早慶附属男子校、共学校の早実がこれにあたる。半附属校(系列大学に一定数進学すると共に他大学にも進学する学校種別)にも1校あり、それは立教女学院である。
また、男子校の桐朋はついこの前まで2月1日1回入試だったが、残念ながら数年前に2回入試となった。桐朋のような三多摩立地の学校の場合、人口が都心や湾岸部に移ったことが大きな影響を与えている。
2月1日ではないが、青山学院が2月2日に1回だけ入試を実施する。2月2日に1回だけ入試を行う学校は、神奈川男子御三家のひとつである栄光、女子進学校の白百合、附属共学校の慶應湘南藤沢である。さらに2月3日だけ1回入試をする学校は男子校の浅野、附属共学校の慶應中等部である。以上19校に加え、創価中学が2月1日の1回だけ入試を行う。

武士が創設した名門男子校と
キリスト教徒が創設した
名門女子校

1回入試校の顔ぶれをみると、実業家の社会貢献事業として設立された武蔵、浅野、キリスト教教育学校である青山、女子学院、雙葉、白百合、フェリス、横浜雙葉、立教女学院、そして、上級学校への進学校としての開成、桜蔭、麻布(麻布は東洋英和とともにキリスト教教育校として出発)、という色分けになる。
早慶と創価に関しては、創立者そのものの存在が建学の理念ということになるだろうか。武蔵、浅野が大正期である以外は、すべて明治期に創立されている。
キリスト教教育学校はすべて女子校(青山もほとんどが女子生徒の状況から出発)であり、創立者が修道女や宣教師である。男子校の創立者は武家(上記19校以外では僧侶も)だ。明治までの教養層は武士か僧侶だから、武士が名門男子校を創り、名門女子校はキリスト教徒が創ったと言える。
少し補足すると、早稲田は専門学校(現在の大学)から創立したが、慶應義塾は創立時からイギリスのパブリックスクールに範を取って一貫教育機関として創立している。早実は1901年(明治34年)に創立している。

時代の波で、1回入試を
維持できなくなる学校も

このように1回しか入試のない学校は名門と言えるのはもちろんなのだが、実は歴史的にも名門であることがおわかりいただけるかと思う。これらの私立学校が文化の維持装置として果たした役割は大きい。
とはいえ、桐朋のところでも記したように、時代の波でこの名門の現実的な威信である1回入試も維持できなくなることはやむをえない。その意味で、女子校のいくつかはこれからも1回入試でいけるかどうか、やや心もとない。特に神奈川の横浜雙葉はこの数年倍率が緩和しているので、このまま1回の入試を続けられるか微妙な情勢だ。
つい今年の入試から1回入試を2回に分けたのがカトリック男子校・暁星。先ごろ話題となったテレビドラマ「半沢直樹」の出演者の多くが同校出身ということで暁星が改めて注目されたが、長らく3日入試1回だったのを、今年から2日と3日午後の2回実施した。

1回入試校でないものの
トップクラスの豊島岡・聖光

そもそも1回だけの募集に2~3倍の受験生が集まるという理由は、「出口効果」というしかないのだが、その意味では自らブランド化している早慶や創価はさておき、他の男子校はおおむね東大と医学部進学が尺度になっていると考えてよい。
ただ、女子校でも桜蔭は男子校と同じ実績を出しているので別格だ。男子の栄光や女子校の名門のほとんどを占めるキリスト教主義教育校は、ご存知の通りカトリックとプロテスタントの両方があるが、本来はそれぞれ総本山の大学もある。カトリックは上智大学であり、プロテスタントはICUである。
女子もキャリアを重ねる時代にあって、出口への関心は高く、名門校のいずれも大学進学先としては理系比率が高い。とりわけ灘と並ぶ医学部進学率の高さを示しているのは桜蔭である。女子校では桜蔭に続く豊島岡女子は1回入試校ではないものの、男子校の聖光と同じで、数回の入試をしながら実質はトップクラスの出口実績をもつ。
出口実績という点では、武蔵は他の御三家や駒東には及ばないが、上質な教養主義の学校として「品位」を保っている。女子のキリスト教主義の名門校も、実は教養教育を日本に根付かせた存在として重きをなしている。