2020.9.30

第 3 回

栄 光 VS 聖 光

東大合格実績で比べる
栄光・聖光
~コロナ禍で併願パターンは
どう変わるか~

森上教育研究所 所長 森上展安氏

カトリック男子校の両校
評価は拮抗

栄光と聖光は共に戦後にできたカトリック男子校で、特に栄光はイエズス会を経営母体とする中高一貫校である神戸の六甲、広島の広島学院、福岡の泰星学園などとともに2016年4月に上智大学と法人合併しました。福岡の泰星をのぞけば男子進学校としていずれも評価の高い名門。
一方、聖光はカナダ系の修道会のカトリック校で、今のように東大進学者を多く出す進学校と目されるようになったのは近々20年くらいのことです。
難関校の難度でいうと近年は聖光の方が栄光より高い。しかし、特に数年前から栄光の東大実績の復調が著しく、卒業生を分母として東大合格者数の割合をみると、この数年の評価は拮抗という表現がピッタリです。

人気を二分する2校

今の親世代が中学受験の頃は、聖光はまだ「難関校」ならぬ「上位校」で、栄光の東大実績の方が際立っていました。その意味では親世代から見れば聖光の偏差値が栄光より高いのは少し意外感もありそうです。
加えてこの数年、両校は競うように新校舎に衣替えしていて、まさに人気を二分しています。親世代の栄光と人気を引っ張ったのは当時の栄光理事長校長だったグスタフ・フォス神父が著した『日本の父へ』という教育書で、文字通り父親に向けて教育に向き合うよう求めました。とてもよく読まれ、今に続くロングセラーです。
一方で、聖光は中興の祖とも言うべき理事長校長の工藤誠一先生の存在が大きい。というのも、工藤理事長校長は一度事務長も経験しており、教学にも運営にも精通して学校を方向づけることに手腕を発揮されました。国からの要請で学校週5日制が始まった際、私学の対応が分かれ、進学校は6日制を維持する中で聖光は5日制にして、しかし土曜日を活用して「聖光塾」と称する連続講座を設け、学校コンテンツの魅力化を打ち出しました(灘がこれと同じ方式です)。

併願校は栄光-麻布
聖光-開成が多い

さて、両校を受験する場合、併願先が片や栄光は麻布で、聖光は開成が多いという事情は強調しておくべき点だと思います。栄光-麻布の併願に共通する点は、背景の学校文化がリベラルだ、ということがあります。一方、聖光-開成の場合は、東大進学実績校としての学校文化が成立しているところがあって、言葉をかえれば進路進学が隠れたカリキュラムと言っていいと思います。
共通点は、いずれもクラブ活動を週3日としているところで、また、バックボーンがカトリックだということは言うまでもありません。

県内生流出減少により
入試問題が難化

近年の聖光と栄光の躍進ないし復調は、学校運営の取り組みが成果に表れたのはもちろんですが、外因としてはリーマンショックとこれに続く東日本大震災も小さくないと思います。
リーマンショックと東日本大震災の影響により、受験生は近隣通学に大きくシフトしました。簡単に言えば神奈川県の受験生は都内に行かず、都内生は都外に出ないという受験行動が特に震災直後数年は顕著でした。優秀な県内生の流出が少なくなったわけです。これは同時並行で両校の入試問題の質を高止まりさせ、いわゆる難関校らしい高水準の選抜問題が出され続けています。それに応える受験生が両校を目指しているとも言えるでしょう。誤解のないように言えば、聖光は4日も2回目の入試をするので、開成-栄光-聖光という併願も成立し、開成がだめだった際の栄光か聖光かいずれに進学するかは定番のお悩み相談となっている状況です。
贅沢な悩みですが、両校比較の際に聖光の現役合格率に注目する人もいれば(聖光は現役合格志向が強いようです)、栄光の難関校としての歴史の長さ―それはOB層の厚さでもある―に注目する人もいます。
筆者の記憶では、ご縁のあるNHKプロデューサー氏が同校出身で、イエズス会の学校が世界史をどう教えるかに興味があったから入学したと話されたのが印象に残っています。なかなか早熟な小学生だったと言えますが、やはりそこは同校も意識しているのか、東京大学教授加藤陽子氏の著書『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)は栄光学園での出前授業を本にしたもので、世界史を踏まえて日本の論争的な近現代史の講義として高い評判を得ています。山川出版社の定番の教科書も加藤氏が著書の一人です。
なお、聖光と洗足の「模擬国連」への参加は、男子校と女子校の協同の試みとしてユニークですね。

コロナ禍による受験校の傾向は

さて、コロナショックが襲う来年入試はどうなるか、また、来年以降の入試はどうなるでしょうか。ひとつは密回避で上りの満員電車を避けるという行動がどこまで鮮明に出るかがポイントです。上りにしても長時間の通学は避ける傾向がどこまではっきりするか。少し和らいでいた都県をまたぐ受験動向が再び震災後のような近隣通学傾向を強める可能性も考えられます。あるいは併願するとも不合格となる事態を恐れていずれか一方に絞る、というコロナ受験ならではの超弱気受験も考えられます。