東京慈恵会医科大学
基本情報
試験時間:理科2科目あわせて120分/問題数:大問4題
分析担当
菊川 敏一

出題内容・難易度

大問 出題内容 出題形式 難易度
1 電池の起電力 記述式 標準
2 生体内における鉄元素の役割 記述式 やや難
3 芳香族複素環式化合物 記述式 標準
4 アミロペクチンの枝分かれについて 記述式 やや易

問題分析

  1. 本年度の医学部受験で頻出となっている電池の起電力についての出題である。東京慈恵会医科大の問題らしく、多くの受験生が見たことのないテーマに関する文章を読み、解答していく形式である。理論化学分野の問題のため、従来であれば計算問題が多く出題されるところだが、計算問題が大幅に減少した。電池、化学反応と熱、反応速度といった単元を横断してどれだけ文章を理解できたかがポイントとなる。
  2. 問1に引き続き、多くの受験生が見たことのない生体内における鉄元素の役割に関する文章を読み、解答していく問題である。理論化学と無機化学がテーマとなっている。問2のヘモグロビンと酸素の結合を平衡定数の利用により定量的に考えていく問題は2013年の類題である。また、問4の見慣れない物質中の鉄イオンの電荷を答える問題も近年ではよく出題されるテーマである。過去問演習をしていた受験生は解きやすかっただろう。しかし、問3のS-Fe結合の状態を記述する問題は難問である。
  3. 芳香族複素環式化合物からの出題である。芳香族複素環式化合物の有機化合物としての性質に関する学習は高等学校の学習指導要領外であり、新課程で新たに扱われることになった核酸の単元において芳香族複素環を有している核酸塩基が知識事項として登場するのみである。しかし、これまでの東京慈恵会医科大の有機化学分野における出題テーマである「有機化合物の性質は官能基が決定し、見慣れない化合物であっても官能基から考えればその性質は予測することができる」を理解していれば解くことができる。また、センター試験から大学入学共通テストへの変更に代表される教育改革のテーマである「主体的な学び」を意識してか、2018年から実験操作に関する話題が出題され始めた。問4では反応収率に関する出題がなされており、大学入学共通テストの平成30年度11月の試行調査にも同様の問題が出されている。
  4. ヒドロキシ基のメトキシ化を利用したアミロペクチンの枝分かれの本数を決定する問題で、医学部受験では典型的なものである。2017年の入試ではこのテーマが頻出であったため、東京慈恵会医科大以外の入試対策をしている際に学んでいる受験生が多いと思われる。4つの大問の中では最も解きやすいものであるため、確実に得点しておきたい。

総評

2018年から東京慈恵会医科大の出題傾向が変化した。これまでは文章を読んで受験生の知らない化学現象や物質の性質・反応を推察させる問題が主であったが、文章を読んで正しくデータを使いこなす問題や実験に関する理解を問う問題へと変化してきている。
本年度の入試問題では計算問題が大幅に減少したため、易化したとの見方もできるが、問題文自体は過去のものと比べると読みにくく、解くためのヒントになっていないこともあるので得点はしにくい。化学の典型問題を早期に学び終え、実験に関する知見や読解力の強化にどれだけ時間をかけられるかが慈恵会医科大合格の学習のポイントとなる。